愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
朝陽にとって父は絶対権力者のような存在だ。

曽祖父が営んでいた小さな町の電気屋を、祖父がアカフジ電機と名付けて株式会社にした。

それを今の巨大企業まで成長させたのは父の業績である。

朝陽は子供の頃から父を尊敬して憧れ、いつか跡を継ぎたいと夢見てきた。

しかし同時に怖い存在でもある。

物心ついた時から父親は仕事で不在がちだった。

親子らしい交流はなく、たまに帰宅しても息子たちの成績表をチェックして、もっと努力しろと命じるだけだ。

朝陽は子供の頃からずっと父には敬語で話す。

父親としては落第点なのだろうが、それでも憧れたのは母がいつも『お父さんは素晴らしい人なのよ』と息子たちに話していたからだろう。

先方の行動予測ができなかった自分への腹立たしさと同時に焦りも感じた。

(このままでは、いつまでたっても兄貴に追いつけない)

四歳上の兄は本社の次長職に就いている。

グループ会社の専務と本社の次長、どちらが出世しているのかと言えば後者だ。

三年前にこの会社への異動を命じられた時は、目の前が暗くなった。

それは後継者を兄に決めたと、父に言われた気がしたからだ。

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