愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
手土産がないと気づいて途中で和菓子屋に寄ってもらい、菓子折りを用意した。

その紙袋の持ち手を握りしめ、車窓の景色も見ずに挨拶の言葉を探していた。

(事前にご連絡差し上げず、突然押しかけて申し訳ございません。玄関先でいいので少しだけお話させてもらえないでしょうか? こんな感じでいいかな。でも前に伺った時、朝陽さんも一緒だったのに玄関の中にも入れてもらえなかった。私ひとりなら門前払いかも)

とにかく行ってみなければわからない。

時刻は十四時。

自宅を出てから四十分ほどで夫の自宅前に着き、成美は覚悟を決めてタクシーを降りた。

どれくらいの訪問時間になるのか見当もつかないので、タクシーには待っていてもらわず引き返してもらった。

(大きなお屋敷ね)

見るのは二度目だが、広い敷地の日本家屋に気圧されそうになる。

建物より古いと夫が言っていた正面の門は開いていた。

門前払いでは困るので成美はそっと敷地内に入り、玄関の引き戸の前に立つ。

緊張して手が汗ばみ、鼓動は早鐘を打ち鳴らしている。

(大丈夫。話せばきっとわかってもらえる。話さなければなにも変えられない)

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