愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
深呼吸をしてから呼び鈴に手を伸ばそうとしたが、人の気配を感じて右側に広がる庭を見た。

春咲きの椿が美しく、立派な枝ぶりの松や紅葉、イチョウが植えられ、大きな石や池で構成された美しい日本庭園だ。

その庭の椿の下で、和服姿の女性が下を向いてうろうろしていた。

(お母様だ!)

成美は庭の手前まで進み、数メートル先にいる夫の母に意を決して声をかける。

「ごめんください」

振り向いた母親の顔がたちまち険しくなる。

化粧砂利を踏んで足早にこちらに来ると、成美と対峙して声を荒げる。

「なにしに来たのよ! 敷地内に入っていいと許可した覚えはありません」

「申し訳ございません。どうしてもお母様とお話がしたく――」

「帰ってちょうだい。今、探し物をしていて忙しいのよ」

下を向いてうろうろしていたのはそのためだったようだ。

「なにをお探しですか? 私も一緒に探します」

「そんな見え透いた親切で取り入ろうとしても無駄よ。あなたを藤江家の嫁だと認めませんから」

困っている人を見過ごせないのは小さな頃からの成美の性分だ。

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