愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
どういう意味かはわからないが、つらく悲しそうな声に成美まで胸が痛くなる。

夫の母は肩を落としたまま玄関ホールから伸びる廊下の奥へと引き上げた。

「奥様が色々とすみません」

家政婦の田中が謝ってくれて、成美は一礼して夫の実家を後にする。

(絶対に見つける)

たとえ認めてくれなくても、夫の母に悲しい顔のままでいてほしくなかった。



夫の実家を出てから三時間半ほどが経つ。

成美はネックレスを探しながら隅田川沿いを歩いている。

ここは道幅の広い遊歩道になっていて、ジョギングや散歩をする人、観光客の姿も目立つ。

しかし間もなく日没で、人通りがまばらになった。

空は紫がかった紺色に変わろうとしており、緩やかに流れる川面は外灯やビル明かりを反射させている。

足元に不自由のない明るさは残されているが、小さなネックレスを探すのはさらに難しくなった。

(どうしよう。見つからない。これで三往復目なのに)

東銀座の歌舞伎座前でタクシーを降りた成美は、そこから夫の母が一昨日通ったルートを徒歩で辿った。

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