愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
ひと月半ほど前にスポーツジムで偶然に会っただけだと説明し、胸を触られたアクシデントは恥ずかしいので打ち明けなかったが、彼に失礼な言葉をぶつけて逃げた話は正直に打ち明けた。

それ以前から一方的に知られていたというのは、成美にもよくわからない。

「藤江さんは心が広い方なのね。怒っていないどころか、成美にまた会いたいと思ってくださるなんて。次のデートが待ち遠しいわね」

「デート? あっ……」

話の流れで自然と連絡先を交換し、次に会う約束もしてしまったとハッとした。

(もしかして、すぐに教えてくれなかったのは次に繋げるため?)

彼の作戦だったのではないかと勘繰ったら、顔が一気に熱くなった。

それを冷ましたくてアイスクリームを頬張り、自意識過剰の推測はやめようと自分の心に言い聞かせる。

(思わせぶりな言葉は社交辞令よ。藤江さんほどの人なら交際相手に困らないはずだもの。きっと今日は本当に時間がなくて教えられなかっただけ)

隣で母がフフッと嬉しそうに微笑んでいる。

「成美、頑張って幸せを掴んでね」

「お母さん……アイスクリームが溶けるよ。バニラの風味が濃くてすごく美味しいから食べよう」

添えられた桃はみずみずしく、和三盆のロールケーキは抹茶によく合う。

(断られるつもりで臨んだお見合いだったのに)

久しぶりの贅沢な甘みを楽しみながら、不思議な心地も味わっていた。

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