愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
「お客様のお名前をお伺いしてよろしいでしょうか?」

『上杉元重だ』

「お調べいたします。五か月前にご契約いただいた豊島区の上杉様ですね。クリーナーの不調はいつ頃からでしょうか?」

『一昨日くらいだな。胃を悪くして入院した家内にモップくらいかけておいてと頼まれたんだ。退院して帰ったら、部屋が汚いのは勘弁してくれってさ。昨日は少しマシだったが、今日はちっともごみを吸わねぇ。まだ新しいのに壊れちまったんだよ』

(奥様が入院されて、普段は家事をしないご主人が掃除をするようになったのね)

その様子を想像して大変な思いをされているのだろうと同情した。

掃除や洗濯、料理をしようとしても、用具をしまっている場所や使い方がわからず、イライラをつのらせているのではないだろうか。

それでも妻の期待に応えようとして一生懸命に掃除をするのは、安心して治療に専念してもらいたいという愛情からではないだろうか。

(素敵なご夫婦ね)

成美は電話の相手に好感を抱くと同時にクリーナーの不調の原因に気づいた。

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