愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す

そう言ったのは四十代の男性店長で、どうやら怒鳴りつけていた男性客の声が離れた席まで届いていたらしい。

仕事ぶりを認めてくれるのは嬉しいが、その言い方はどうなのかと成美は真顔で意見する。

「クレーマーではありません。奥様想いの素敵なお客様でした」

すると梢が半笑いで指摘する。

「なに言ってるかわからないくらい怒鳴る客を、素敵と言えるんだ。しかもごみを捨てていなかったのが原因なんて、普通はいい加減にしろって思うでしょ。成美はすごいね。奥さん入院してるとか、そんな情報引き出せないよ、普通は」

繰り返し言われた〝普通〟という言葉が、成美の胸にチクリと刺さる。

曲がったことが許せない父と真面目な母の影響で、成美は子供の頃から品行方正に生きてきた。

調子に乗ったりふざけたりした経験は、記憶にある限り一度もない。

人を悪く言うのも、ズルをするのも是としない性格である。

そのため取っつきにくいと思われ、友達ができにくかった。

『及川さんって、清く正しく、超硬いよね。頭の中、石でできているんじゃない?』

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