愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
校則で禁止のスマホを持ってきた高校のクラスメイトに注意したら、そう言って嘲笑された思い出がある。

自分でも行きすぎだとわかっているのだが、どうにも真面目さを崩せず、性格について触れられると心が痛んだ。

しかし梢に悪意がないのはわかっているので、からかい交じりの褒め言葉に対し、お礼を言って頭を下げた。

他の従業員たちがそれぞれの仕事に戻ると、梢が自分のショルダーバッグをゴソゴソ探り、名刺大の紙を取り出した。

(あ、もしかしてそれは……)


嫌な予感は当たりだった。

笑顔で差し出されたものは、梢が通っているスポーツジムの一日無料体験チケットだ。

ひと月ほど前にも同じものを、残業を代わってくれたお礼だと言って渡され、その時はありがたく受け取ったのだが――。

「またジムの無料チケットでごめんね。今、金欠で、これくらいしかお礼できないんだ。もらって」

「え、ええと……」

「どうしたの?」

先月のように喜ばない成美を見て、梢が首を傾げた。

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