愛してると言わせたい――冷徹御曹司はお見合い妻を10年越しの溺愛で絆す
式は滞りなく進み、讃美歌を歌い聖書の朗読を聞く。

片言の英語しか話せない成美には難しく、意識が逸れて父を想う。

(今、どこでなにをしているの? 生活に困っていない? 近況だけも知りたい……)

進行はいつの間にか誓いの言葉に移っていた。

病める時も健やかなる時も――という牧師の英語の問いかけに、ぼんやりしている成美は気づけない。

「成美さん」

朝陽に小声で呼ばれてハッと我に返り、慌てて返事をする。

「イ、イエス」

(いけない。一生に一度の大事な結婚式なんだから、集中して記憶にしっかり留めないと)

次に指輪を交換する。

結婚指輪は内側に小粒のブルーダイヤを埋め込んだプラチナリングだ。

婚約指輪は触れるのをためらうほど大きなダイヤモンドがついていたので、普段身に着ける結婚指輪はシンプルなものにしてほしいとお願いした。

指輪の交換がすむと、成美の顔にかかるベールに朝陽が触れた。

(そうだ、この後は誓いのキス。大丈夫よね……?)

晴れの日を迎えても、まだキスはしていない。

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