悪役令嬢は推し神様に嫁ぎたい!〜婚約破棄?良いですよ?でも推しの神様に嫁ぐため聖女になるので冤罪だけは晴らさせて頂きます!〜
 この世界・ハイリヒテルは神々と人が近い。
 人が神に祈り、神はその祈りの力で人々に恩恵を与えるのがこの世界の理だ。
 とはいえ、神々がその姿を人の前に現すことなどほとんどない。
 かつては神に気に入られた人間がその御許に仕えることもあったが、ここ百年ほどはそのようなこともなく神の姿を直接目にすることなど無くなっている。

 だが、今ティアリーゼの目の前にいるのは確かにその神の一柱(ひとり)だった。
 神しか持たないと言われる神力なのだろう。明らかに人とは違う力を感じる。

「驚いたな。確かにお前は日々私に祈りを捧げてくれていたが、五柱(いつはしら)の大神以外の姿などほとんど伝わっていないだろうに」
「あ……辺境の神殿に、一つだけ貴方様のお姿が描かれた絵画があったのです」

 心音を激しく鳴り響かせながら、ティアリーゼは何とか言葉を紡いだ。

 あれは五歳の頃だ。
 父の友人の辺境伯の領地へ一度だけ連れて行かれた。
 幼い体に長旅は苦痛でしかなかったが、伯の領地を案内される中入った小さな神殿にその絵画があったのだ。

 疲れも吹き飛ぶほどの衝撃。
 軍神ストラこそ、自分の推し神だと思った。

 すぐに姿絵の模を頼み、公爵邸に帰ると弟を身籠っていて留守番をしていた母に興奮しながら話したのを覚えている。
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