モノクロに君が咲く
どうして、とずっと疑問に思っていた。
でも、そこにはきっと先輩しか知らない事情があるのだろう。私の『ただの後輩』という立ち位置では、なかなかその繊細な部分まで立ち入ることは難しい。
「生意気かもしれませんけど、さっきの言葉。絵を描くことしかない、じゃないですからね。できることがあるってすごく特別なことなんですよ、先輩」
「……だとして、君はどうなの」
「え?」
「君も絵を描く人でしょ」
まあたしかに、私も生粋の絵描きだ。ユイ先輩には及ばずとも、絵に関しては並々ならぬ思いがある。特別、と言えば、きっと自分にも当てはまるのだろう。
だが、そこは明確に違う。私と先輩では、はなから比べることはできない。
「私は絵を描くこと自体に、そこまでこだわってないんです」
「……?」
「絵を描くのは──描いていたのは。その先に希望があったからでした。だけどこの希望はもう、仮に私が絵を描けなくなったとしても続くものになったので」
だから本当は、もう絵を描く理由すらない。美術部で唯一と言ってもいいほど真面目に活動していた身としては、たとえ口が滑っても明かせないけれど。
「そういえば先輩。遅ればせながら、今年も金賞おめでとうございます」
ひょいっと立ち上がってユイ先輩と向き合うように振り返ると、唐突な話の転換に先輩は面食らっているようだった。それでも構わず続ける。
「コンクール五年連続金賞ってもう神さまの域ですよね。さすがです」
「……君だって銀賞だったじゃない」
思いがけない返しに、私はえっと大きく目を瞠った。
「先輩、私が銀賞獲ったこと気づいたんですか」