モノクロに君が咲く
「? そりゃ気づくでしょ。部員の功績くらい、さすがの俺もチェックするよ」
へえ、と心の奥底がそわそわと浮き足立つ。だって、他人への興味が皆無に等しい先輩が、まさか気づいてくれるなんて思っていなかった。
「ふふ」
「……嬉しそうだね?」
「嬉しいですよ。たぶん、ここ数年でいちばん」
一歩、二歩、三歩と足を踏み出して、風雅な桜の大樹を見上げる。
樹齢百年記念で数年前にここへ植え替えられた桜は、きっと他のどの桜よりも空に近い場所にいるのだろう。
天に花を咲かせる薄紅を脳裏に焼きつけながら、私は「先輩」と呼んだ。
「なに?」
「ユイ先輩」
「……聞こえてるって」
私にとって、誰よりも大切な人。
さきほどまでまったく吹いていなかった風が、私と先輩を隔てるように流れていく。いつも通り。久方ぶりでも、変わらない日常。
けれど、きっとそう遠くないうちに終わりを迎える『当たり前』。
爽やかに凪いだ髪が潤みかけた視界を泳ぐなか、私は誤魔化すように微笑んだ。
「今日も今日とて、大好きです」