モノクロに君が咲く

 私と愁の体格差を考えたらジンベイザメなのだけれど、私のなかの愁は、いつまでも可愛いコバンザメなのだ。そうであってほしい、という願望ありきで。

 言ったら怒りそうだから、絶対に言わないけど。

「……春永先輩も。その、ありがとう、ございます」

「いや、俺も楽しかったし。今日は疲れただろうから、ゆっくり休ませてあげて」

「はあ。言われなくてもそうしますけど」

 なにかを感じ取ったのか、訝しげにユイ先輩と私を交互に見る愁。その察しのよさに冷や汗をかきながら、私は慌てて「じゃあ!」と話に割って入った。

「そろそろ私たち行きますね。先輩、今日は本当にありがとうございました!」

「こちらこそ。また連絡するから」

「は、はい……!」

 じゃあね、と私の頭をひと撫でしてから、ユイ先輩は私たちの帰り道とは反対方向へと歩いていく。

 ……今日一日で、何度撫でられただろうか。

 もしかして癖なのか。あるいは、撫でるのが好きな人なのか。

 いつもはなにかと世話を焼かれている印象があるのに、ああ見えて意外と庇護欲があったりするのかもしれない。それは些か、気恥ずかしいのだけれど。

 呆然と立ち尽くしながらユイ先輩の背中を見送って、私は両手で顔を覆った。

 ああ、まずい。これはよろしくない傾向だ。

 先輩がとてつもなく甘やかしモードに突入してしまったような気がする。

「……愁」

「…………」

「ごめん。終わりにできなかった……」

「だろうね!」

 はぁあ、と聞いたこともない全力のため息と共に、愁が頭をがしがしと掻き乱す。

「……しかも付き合うことになっちゃった……」
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