モノクロに君が咲く

「正直、正解がわからない。おれも、きっと母さんや父さんも、姉ちゃんがやりたいことはできる限りやらせてやりたいって思ってるんだ。でも、それと同じくらい心配で、少しでも長生きできるなら治療に専念してほしいとも思ってる」

「っ、うん。わかってるよ」

「けどさ。それで姉ちゃんから笑顔が消えるのは、また本末転倒なんだよ」

 自嘲に似た笑みを滲ませながら、私の視界の端で拳を握った。

「……私から、笑顔が?」

「うん。だって姉ちゃん、高校入ってからの二年がいちばんいい顔してんだもん。そんな姉ちゃん見てたらさ、なにがどう正しいのか、わからなくなるっていうか」

 ぐっと前髪をかきあげながら、愁はおもむろに立ち上がる。

「正確には、あの先輩と一緒にいるようになってから、かな。毎日楽しそうで、めちゃくちゃ幸せそうで……そんな姉ちゃん見てると、おれは弟のくせになにもできてないなって悔しくなってさ。それで先輩に当たった。ごめん」

「な、なにもできてないなんて、そんなこと……っ」

「ま、そりゃ、最大限サポートはしてるつもりだけど。そうじゃなくて、なんつーのかな。姉ちゃんを本当の意味で幸せにできんのは、結局のところ家族じゃないんだって実感したっていうか」

 ──私を、幸せにする。

 幸せ、という言葉に直結して真っ先に頭に浮かぶのは、ユイ先輩だ。

 つまり、そういうことか。

 私が心の底から幸せだと感じて、心の底から笑顔になれるのはユイ先輩がいるからだと、自他共に認めるほど赤裸々になってしまったのか。
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