モノクロに君が咲く
「先輩が描く世界、先輩が映す世界が大好きです。一緒に過ごす時間の幸せは私にとってかけがえのないものですけど、たとえ一緒に過ごしていなくても、先輩はいつだって私の生きる道標だったんですよ」
ああなんで、と俺はきつく眉をひそめながら睫毛を伏せた。
俺のことを好きで、大事に思ってくれているのは伝わってくる。
だというのに、希望は。希望だけは、与えてくれない。付き合っているのに、一緒にいるのに、鈴ははっきりとこのさきにある別れを確信しているのだ。
手を取ってもなお、届かない。この手が砂のように消えてしまうなんて耐えられないと、心が壊れそうなほどそう思うのに、鈴はその現実を避けさせてはくれない。
「ユイ先輩は人形なんかじゃありません。たとえ先輩の世界が灰色でも、ちゃんとこの世界に生きている人間です。私を好きだと言ってくれる、誰よりも温かい人です。私はそんな先輩に生きてほしい。なによりも、それが望みなんです」
鈴がゆっくりと離れる。そのまま崩れ落ちるようにガクッと力が抜けた鈴を、なけなしの反射神経で慌てて支えた。ぐるぐるしていた思考が一気に吹き飛ぶ。
「っ、鈴……!?」
「あはは、すみません。こんなちょっとしか立ってられないなんて情けないですね」
脱力した鈴をゆっくりと車椅子に座らせて、俺はその場にしゃがみこむ。
さきほどよりも明らかに顔色の悪い鈴の頬をおそるおそる撫でながら、俺は「そんなことない」と語気を強めて言い募った。
「鈴は頑張ってるよ。情けないとかありえないから」
少し困ったように微笑んで、鈴はぐりぐりと俺の片口に額を押しつけてくる。