モノクロに君が咲く
その笑顔を見ていると、なぜか絵を描けなくなる。俺がこれまで描いていた絵がいったいどんなものだったのか思い出せなくなる。光に当てられる、というか。
「おい」
ふいに背後からかけられた声に、俺は驚きながら振り返った。
弟くんがいた。手には花瓶を持っている。その顔はいつにも増して不機嫌そうな仏頂面だが、真っ直ぐにこちらを見据えてくる辺り、俺になにか用があるのだろうか。
「ちょっと、話したいんだけど」
「……俺と?」
「他に誰がいるんだよ。あんたとに決まってんだろ」
まあそりゃあ、たしかに。
つかつかと俺の方に歩いてきた弟くんは、そのまま俺の横を通り過ぎて歩いていく。
彼の足が向く先には、面会者用のフリースペースがあった。
なるほど、あそこで話すつもりらしい。話の内容は予測もつかないが。
疑問を浮かべながら付いていくと、彼は向かいあわせのソファに座って待っていた。
俺がすごすごと向かい側に座れば、ドン、と花瓶を間に挟んだ机の上に置かれる。
超絶不機嫌だ。もしや俺は、これから怒られるのだろうか。
「あんた、姉ちゃんと付き合ってるんだろ」
そして開口いちばん、弟くんは突き放すような口調で言った。あれ怒られない、と拍子抜けしながらも、視線の置き場を探しながら首肯する。
「付き合ってる、けど」
鈴が弟には話したと言っていた。
だから知っているのだろうが、それにしては声音があまりにも不穏だ。俺はどういう反応をするべきなのか迷いつつ、ひとまず様子を窺うことにした。
弟くんはしばし黙り込んだかと思うと、はあ、と深いため息を吐き出した。