モノクロに君が咲く
「……あんま口出しはしたくないんだけどさ。姉ちゃんには、幸せならいいんじゃないって言っちまったし。でも、やっぱ気になるから聞きたい」
「ん、なに」
「あんた、そういう覚悟はあんの?」
そういう、とは。やは、り鈴の『余命』についての話だろうか。
「おれは……おれたち家族はさ。この五年、ずっと覚悟を積み重ねてきたんだ。姉ちゃんとは比べものにならないと思うけど、それでも覚悟してきたんだ。姉ちゃんが死ぬってことを、ずっと心に留めて、受け入れられるように努力してきたんだよ」
「受け入れる? 死、を?」
「そうだよ。いついなくなってもおかしくないからこそ、一緒にいられる時間の限りを尽くして姉ちゃんを一秒でも長く感じておこうって。覚悟ってそういうもんだろ」
「そう……なの、かな」
どんな手を尽くしても逃れようのない、定められた未来だからこそ、なのか。
彼のなかの覚悟が、はたしてどんなものを指すのかがわからない以上、俺は現在進行形でその答えを持っていない。
だから、そういうものだろと言われれば、うなずくしか選択肢がなかった。
だって俺よりも、彼の方が圧倒的に鈴の命に向き合ってきた期間が長いのだから。
否定でも肯定でもなく、一意見として受け入れるしかないのだ。弟くんにとっての覚悟がそういうものなら、またそれもひとつの形でしかない。
「で? 覚悟、あんの?」
絵と同じで、考え方まで共有するのは不可能だ。
きっと鈴なら、こういう場面でも臆さず自分の意見を伝えるのだろうけど。
「君は、おれに覚悟を持っていてほしいってことでいいのかな」