モノクロに君が咲く

「持っているのかいないのかを聞いてんだよ。ほしいとかじゃなくて」

「ああ……でも、うん、ごめんね。君と同じ覚悟とやらの話はちょっと……」

 ──俺にはとても真似できないな、と思う。

 そんな未来に待ち受ける『死』なんかよりも、今を見ていたい俺には、あまりに理解が及ばない。

「あんたはわかってないんだろ。もうすぐ死んじゃう姉ちゃんの彼氏になんかなって、そのあとどんだけつらいか。どんだけ、この現実が残酷なのか」

「…………」

「ここはさ、現実だから。アニメやドラマとかみたいに、奇跡が起こって命が救われるなんてことはないんだよ。有り得ないんだ」

 そうだろうな、となにも答えないまま静かに目を伏せた。

 奇跡が起きれば、と願う気持ちはもちろんある。けれども、それが起きると信じているほど俺も馬鹿ではない。現実は、いつだってそこにあるままが現実なのだ。

 枯桜病は、そんなに甘い病気ではない。

「──姉ちゃんには気の毒だけど。申し訳ないと思うけど。でも、これからも生きていかなきゃいけないのは、あんたの方なんだ。つらい思いをするのが嫌なら、生半可な気持ちで……」

「そんなんじゃない」

 さすがにそのさきは聞きかねて、俺はなかば被せるように否定した。

「……生半可な気持ちなんかじゃないよ、弟くん」

 彼が、俺と鈴を想って忠告してくれているのはわかっている。

 この状況下では姉のことを第一に考えたいだろうに、俺のことをこうして気にしてくれるあたり、とても大人だとも思う。

 大人過ぎて心配になるくらいだ。

 ……昔の俺と、どこか似ているような気がする。
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