モノクロに君が咲く

「鈴にはもう話したけど──六年前、俺は母親を亡くしてるんだ」

「えっ……」

「俺が小学六年生のとき。時期的にはたぶん、鈴が病名宣告を受ける一年前あたりかな。枯桜病ではないけど、末期の癌を患ってね」

 まさかそう返されるとは思わなかったのだろう。

 弟くんはひゅっと息を呑み、わかりやすく狼狽えた。

 その様子がなんとも幼くて、ああやっぱりまだ中学生なんだな、と思う。

 子どもらしくない大人びた雰囲気を纏っていても、大人にならなくてはならない状況で成長していたとしても、やっぱりまだこの子は子どもなのだ。

「病名が発覚して入院して……そうだな。たしか、だいたい半年ちょっとで亡くなったんだけど。俺はね、母の葬式まで母が癌だったことを知らなかったんだ」

「……え?」

「教えられなかったんだよ。癌ってことも、余命のことも」

 鈴とそっくりの瞳がひどく震えるのを見つめながら、当時のことを思い出す。

「母には少し体調が悪いから入院するけど、ちゃんと帰ってくるからって言われてさ。家族だってなにも言わなかったし、俺はその言葉を鵜呑みにしたんだよね。帰ってくると信じて疑わなかった。……けど」

 結局、母さんは帰ってこなかった。

 まだ子どもだから。余命宣告を受けたと知ったらショックを受けるから。

 そんな余計な配慮から、俺はまともにお別れもできないまま、母さんは最期を迎えてしまったのだ。

 父も、兄たちも知っていたのに、俺だけが隠されていた。

 葬式でもう二度と目を覚まさない母親を前にして、俺がどれほどこの世界への信用をなくしたか、あの人たちは今でも考えたことすらないのだろうけれど。
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