モノクロに君が咲く
「……ねえ、弟くん。人はね、誰しも必ず死ぬんだ」
だからこそ、俺はあのとき思ったのだ。
「鈴の未来は、たしかに逃れられないものなのかもしれない。けど俺だって、弟くんだって、いつ死ぬかなんてわからないんだよ。だったら手遅れになる前に、手が届かなくなる前に、向き合っておかないといけないって、俺はそう思う」
もう二度とあんな思いはしたくない。
死んでしまったら、もうなにもかも遅いのだ。
いくら後悔を募らせたって取り戻せない。もう二度と戻ってはこない。
ありがとうも、ごめんなさいも、たったの一言すらも伝えられなくなる。
それがいちばん、残酷だ。
「死を受け入れるって、君はさっき言ったね。けど、そんなの無理。現に俺は六年経つ今も、母さんの死を受け入れられていないから」
「……だっ、て、じゃあ、他にどうしたら……っ」
「さあね。それはわからないけど、わからないなりに考えた結果が、今だ」
初めから結末がわかっているのなら、なおのこと避けなければならないこと。
いくら傷つこうが、いくらつらかろうが、譲れない。
その後に控える死を越えたさきに待つ痛みや後悔は、きっと手遅れによって生まれたものではないと、俺はたとえ綺麗事でもそう思いたいのだ。
「──母さんは、それほど強く俺の心に棲みついてたんだろうね。日常の些細なことに母さんの面影を感じてさ、忘れたくても忘れられない。今もどこかで、笑って生きてるような気がしてしまう」
ただ、俺が見つけられていないだけなのではないかと、そう思ってしまう。