モノクロに君が咲く

 夏休みが明けて学校が始まっても、私は変わらず入院したままだった。

 眠っている時間が日に日に増えていくなか、ひとつだけ新たに始めたことがある。

「あら、鈴ちゃん起きてる。また絵、描いてるの?」

 ひょこりと病室に顔を覗かせのは伊藤先生だ。リクライニングベッドの背を半分ほど起こし、腰だけ寄りかかりながら絵を描いていた私は曖昧に相好を崩す。

「もう絵を描く理由はないと思ってたんですけどね……」

「理由?」

「うん、だって去年が私にとって最後のコンクールだったから。次のコンクールにはもう出せないだろうなってなんとなくわかってたし。それが終わったら描く理由も気力もなくなっちゃって」

 下書き途中の紙の表面をさらりと撫でた。今はまだ構想中のため、ただのスケッチブックだけれど、実際に絵具を垂らすときはキャンバスになっているだろう。

 水彩紙ではなくあえてキャンバスを選ぶのは、人に贈るものだからだ。

「……私ね、先生。本当はすごく怖いんだ」

「……うん」

 先生は私のベッドに腰掛けながら話を聞く体制になってくれる。

 やっぱり先生はたくさんの患者さんを診てきているだけあって、場の空気を読むことに長けている人だ。
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