モノクロに君が咲く
忙しいだろうに、こんな私の戯言にも真剣に向き合い付き合ってくれる。
きっと先生にしかこぼせない弱音があると、わかっているからだろう。
それは誰よりも私の体のことを理解している立場ゆえのもので、先生自身、こうして患者と話すことも仕事なのだと前に言っていた。
つねに多くの命と向き合う仕事の大変さは、私にはわからないけれど。
きっと先生は、こうして多くの患者を救ってきたのだ。命と共にある患者の心を。
「どうしてもわからないんです。自分が死ぬってこと」
「うん」
「失うことは、もう慣れたはずで。でも、このさきにある死だけは、どうしても実感できなくて。それが無性に怖くなるんです。実感なんてできない方がいいに決まってるのに変ですよね」
おかしいな、と思う。
この五年、片時もそれを忘れたことはないのに。
いつだって目先にある死を自覚して、受け入れることに専念してきたはずなのに。
「変、ではない。すごくね、難しいことだと思うよ。誰だって命が尽きる瞬間のことなんてわからないし、怖くないわけがないんだから」
先生は少し寂しげに目を細めながら、ふるふると首を横に振った。
「経験したことがないものは誰だって怖いもの。私は医者だから日々患者さんと一緒に生死と向き合って生きているけど、それでもわからないわ。こんなこと、あまり大きな声で言えないけどね」
「ふふ、先生でもわからないんじゃ私にわかるわけないですね」
思わずくすりと笑ってしまう。先生は決して表面上の慰めを言わない人だ。病気のこともすべて包み隠さず、私がわかるように教えてくれる。だから、信頼できる。