モノクロに君が咲く



 九月も下旬に差し掛かり、病院の外の景色もだいぶ秋めいてきた頃。

 相も変わらず起きている間はひたすら絵を描き続けていた私のもとに、なんとも予想外の人物が面会にやってきた。病室の扉から室内を確認するように顔だけちらりと覗かせた彼女の姿を見て、久方ぶりに大きな声が転げ落ちる。

「え、沙那先輩!? ……に、ユイ先輩も?」

 ツンとした猫のような顔立ちの沙那先輩のうしろには、ユイ先輩の姿もある。

 慌てて絵を引き出しのなかに隠して、私は驚きを隠せないまま先輩たちを迎えた。

「お久しぶりね。小鳥遊さん」

「お、お久しぶりです……。でも、あの、どうして?」

 大いに困惑しながらユイ先輩を見る。

 ユイ先輩は申し訳なさそうに頬をかいて、ひょいと肩をすくめた。

「どうしてもって言うから」

「そりゃそうでしょ。いい加減、腑抜けを見ていられなくなったのよ」

「酷い言い草……」

「ここはしっかり彼女さんにお尻を叩いてもらわないといけないと思ってね」

 言葉尻にはどこか気遣わしげな雰囲気があるが、沙那先輩の高飛車ぶりは健全だ。

 しかし、腑抜けとはまた毒のある言い方だ。もしやユイ先輩のことだろうか。

「あのね、小鳥遊さん。あたしたち、今年は受験生なのよ」

「は、はい」

「入試までもう半年もないわ。大学を目指す子たちはみんな必死に勉強してるし、専門や就職の道に進む子たちのなかにはもう進路が決まってる子もいる」

「はあ」

「それなのに。それなのにこの男、なんっにもしないのよ!!」
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