モノクロに君が咲く
一日で大作を仕上げてしまうこともある天才画家のユイ先輩が、まさかそんな。
そう思う傍ら、さきほど違和感を覚えた空虚なキャンバスを思い出す。
たしかに、ほぼ白紙だった。
そもそもアタリなんて、ユイ先輩は普段描かないのに。
「本人は、自分がどうして集中できていないのかも気づいていないみたいだったけどね。でも、周りからしてみれば一目瞭然よ。口を開けば『小鳥遊さん、見た?』だもの。おかげであたしは、毎日無駄に二年生の教室まで出向くハメになったわ」
「…………え」
「そりゃあ『やめたんじゃない?』くらい言いたくもなるでしょ。こちとらさんざん振り回されてるんだから。だから今日は、とりあえず文句を言いに来たのよ」
つかつかと大股で歩み寄ってきた沙那先輩は、私から二歩ほど離れたところで立ち止まり仁王立ちした。沙那先輩の足から、三倍ほど膨れた墨色の影が長く伸びる。
「言いなさい。なんでこの一ヶ月、休んだのか」
「えぇ……っと」
「先輩命令よ。あたしには知る権利がある」
びっくりするほど横暴な物言いと主張ではあるが、いまの話を聞いてしまった後ではなかなか無碍にもしづらい。
正直なところ言いたくなかった。というか、沙那先輩に限らず、家族以外には必要に迫られるまで言わないつもりだった。
まさかこんな展開になるとは予測もしておらず、私は眉間を揉みながら唸る。
「……言っときますけど、面白い話じゃありませんよ?」
「面白いか否かは関係ないわ。どんな理由であれ、結生の調子を狂わせて、あたしや相良に気苦労をかけたことに変わりはないんだから」