モノクロに君が咲く

 相良先輩は、ユイ先輩の幼なじみだ。ときおり部活中にユイ先輩の様子を見にやってくるので、私も何度か顔を合わせたことがある。

 どうも聞く限り、私がいなかったあいだユイ先輩は調子が悪かったようだから、一緒にいることが多い相良先輩に被害が及んだのはたしかだろう。

 意図したものではなくとも、申し訳ないとは思う。思うけれども。

「うーん。じゃあ、誰にも言わないって約束してもらえますか?」

「……言えないようなことなの?」

「そうですね……正直、これに関しては難しいところです。いずれは知られてしまうかもしれないけど、いまはまだ隠しておきたいなって感じで」

 ふぅん、と先輩は訝し気に目を眇める。

「いいわよ。べつに、他の誰が知りたい訳でもないだろうし」

「ありがとうございます。じゃあ少し長くなるので、座りながら話しましょうか」

 とはいえ、いったいなにから話したらいいものか。

「あんまり人に話さないので、上手く説明できる自信がないんですけど」

 美術室の古びた木製椅子は、あちこちに絵の具が散りばめられている。何年も何年も蓄積されたそれは、いっそいい味を醸し出していて、私はなんとなく好きだ。

 沙那先輩と向かい合うように腰を下ろして、私はとりわけ濃く固まった朱色の絵の具を指先で撫でる。ツルリとしているかと思いきや、案外ざらざらした感触だった。

 頭の内部で順序を組み立てながら、私は俯きがちに口火を切る。

「ええと。──沙那先輩、『枯桜病』って知ってますか?」

「……え?」

「今から約十年ほど前に突如発現した原因不明の難病です。聞いたことくらいはあります、よね?」
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