モノクロに君が咲く
「接近禁止……ってなにしたんだよおまえ……」
「わからない。俺にとっての鈴の存在が、どんなものなのかを考えてほしいって言われた。それがずっと、はっきり掴めなくて悩んでる」
鈴がいない。その状態で生きていけるのかと言われたら、正直わからないのだ。
そんなの無理だと心では思うのに、いざ離れてみると、俺の体は変わらず呼吸をして、変わらず鼓動を刻み続けている。案外、ちゃんと、生きている。
当然といえば当然なのだろう。けれど、それが無性に不可思議にも思えた。
「昼間、鈴のコンクールの作品を見てさ。鈴が見ている世界を俺も見れたらわかるかなと思って、絵の具を引っ張り出してきたんだけど……」
無駄に複数の絵の具を広げたパレットを持ち上げて膝の上に置く。久方ぶりに鮮明な状態で見る絵の具は、まだどれも混じり気のない色をしている。
「やっぱ描けない、とか?」
「……いや、逆」
「逆?」
平筆で赤を掬い、そのまま空に透かすようにかざしながら俺は目を細めた。
「描けるような気がした。色のある世界を」
「ほ、お?」
「これまでは、いくら想起しても色のある世界を思い描けなかった。でも、今は不思議なくらい色がわかる。……俺が見えている世界の色のつけ方が、わかるんだ」
どこに何色を置けばいいのか。どこをどう表現すればいいのかが感覚でわかる。あれほど、鉛筆一本で灰色の世界を表現し続けてきたにもかかわらずだ。
「いつの間に俺の世界は色づいたんだろうって考えてみたけど、そんなのわかりきっててさ。──鈴がいる世界だから、そう見えるんだよ」
それこそ、目が開けられなくなるほど眩しいくらいに。