モノクロに君が咲く

「結生……」

「情けないけど。今でさえ怖くて怖くて堪らないんだ、俺」

 一言一言、噛みしめるように紡ぎながら振り返ると、隼はまるで自分のことのように苦しそうな顔をしていた。

 眉間に刻まれた深い皺をさらに深めながら、隼は浅く嘆息する。

「……また馬鹿なこと言ってんのな、おまえ。いなくなるのが怖いのは当たり前だろ。俺だって、結生がいなくなるかもって思ったらそれだけで怖えっての」

「俺が……?」

「身近で誰かを失うってさ、たぶん誰もが経験することだろうけど、それを深く考えたりはしないだろ。友だちも家族もいて当たり前。自分にも相手にもフツーに明日は来ると思ってて、毎朝変わらずおはよって言えるもんだと勘違いしてんだよ」

 隼も俺に倣って立ち上がり、こちらへゆっくりと歩いてくる。隣に並んで桜の木を見上げながら、その奥に見える夕日に目を遣り、眩しそうに睫毛を震わせた。

「でも、そうじゃないんだよな。おまえはお母さんのことがあるからとっくに気づいてんのかもしれないけど、どんな瞬間だって別れの可能性はあってさ」

「……うん」

「別れを恐れて関わらないのは簡単なんだ。だけど、そうやって仮に俺がおまえと関わってこなかったら、って考えると……正直そっちのが怖いね、俺は」

 隼はぽつりと独り言のように落として、視線だけ俺の方を向いた。

「俺には病気のことなんて想像もできないし、わかったふりもするつもりはねえ。結局それは知ったかぶりにしかならないしな。だけど、そのうえで言わせてもらうなら、もうおまえのなかでは答え出てんじゃね? ってことくらいだな」

「答えが、もう出てる……? 俺の?」
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