モノクロに君が咲く
「おう。だって描きたいって思える世界に、小鳥遊さんがしてくれたんだろ」
心臓のいちばん深いところを、ぐさりと容赦なく貫かれたような気がした。
形容しがたい衝撃と戸惑いが同時に胸を走る。視界がぐらぐら揺れた。
「そんな世界を、結生は今生きてるんだ。どう見えてんのかは知らねえけど、生きて、描きたいって思ってる。生きてる意味なんて、そんなんで充分じゃないの?」
「……俺、は……」
ああそうか。やっぱり俺は、描きたいのだ。色づいたこの世界を、鈴が色づけてくれたこの世界を、どうしようもなく描き残しておきたいのだ。
そして──……彼女が生きた証明を、したい。
「っ、ありがとう。隼」
「お、おう?」
思い立つが否や、俺はばっと踵を返した。
いまだ空白だった日常使いのキャンバスを見て、これじゃない、と思う。
俺が描きたいのは、描き残したいのは、このサイズでは到底収まらない。
ああ、どうして今さら。どうして俺は、いつもいつも、たったひとつの事実に気づくだけで長い時間がかかってしまうのだろう。本当にだめなやつだ。
でも……そうだ。そうだった。他でもない鈴が言ってくれたんじゃないか。
俺には絵しかないんじゃない。
絵があるんだって。それはすごく特別なことなんだって。
できることがある。
今この瞬間を生きる意味がある。
それが未来へ繋がっていくかどうかはわからないけれど、きっとこれは──俺の、答えだ。