モノクロに君が咲く
十一月一日。
私はユイ先輩へ送ったメッセージ通りに、夕方五時頃、学校にやってきていた。
昇降口前で壁に寄りかかりながら待っている先輩を見つけて、つい顔が綻ぶ。一ヶ月ぶりに見る先輩は、やっぱりなにも変わっていなかった。
「──……ユイ先輩」
私が声をかけると、ユイ先輩はぱっと勢いよく顔をあげた。ほんのわずかに伸びた銀髪の下で、真珠のように透き通った瞳がこちらを捉える。
驚愕や焦燥が入り混じる、新月の夜の色だった。
「す、ず?」
どこか呆然とした様子で私を見て、幻覚だとでも思ったのかごしごしと目を擦る。
私の車椅子を押しながら様子を見ていた愁が「ガキかよ」と投げやりにつぶやいた。
「なんで、ここに……」
「なんでって、私、今日この時間にって言いましたよね?」
「い、言ったけど。まさか鈴が来るとは思ってなかったというか……だって入院、は」
どうやらユイ先輩は、本当に動揺しているようだった。まあ無理もない。
今日のこれは、私としても一種のサプライズのようなものだった。
いたずらに口角を上げながら、私は愁に押されてユイ先輩の方へ近づいていく。
「今日は特別ですよ。先輩」
「……外出許可を出してもらったんだよ。でも今の姉ちゃんは、酸素マスクなしに長く動けないんだ。ここにいられるのは三十分が限界だからな」
「三十分」
愁の言葉を反芻して、ユイ先輩が当惑したように私を見下ろす。
この会わなかったたったの一ヶ月で私が酸素マスクを要するようになったことに、少なからず戸惑いを隠せないらしい。
「おれは母さんたちと外で待ってるから。三十分後、またここまで迎えに来る」