モノクロに君が咲く
じゃあね、と愁はさっさと踵を返して行ってしまう。愁は愁なりに気を遣ってくれているんだろうなと苦笑しながら、私はそのうしろ姿を感謝の気持ちで見送った。
「ユイ先輩」
「……鈴、本当に大丈夫なの? 無理しなくても、俺が会いに行ったのに」
「ああ、違うんです。私が、来たかったんです」
最期に、という言葉は続かなかった。けれど、ユイ先輩はちゃんとその音を聞き取ったらしく、くしゃりとその綺麗な顔を悲し気に歪める。
出会った頃と比べれば、先輩もずいぶんと感情表現が豊かになった。
もう人形ではないことなど明白だ。たとえ誰であっても、ユイ先輩の心の繊細さに気づいてくれるだろう。ひとりの人間として、彼を見てくれるはず。
それが嬉しくて、私はふたたびユイ先輩の名前を呼んだ。
「屋上庭園に連れて行ってくれませんか」
「っ、え」
「私、車椅子だと階段上れないし。ちょっとだけ甘えさせてください、先輩」
私と車椅子を交互に見て、ユイ先輩はおずおずとうなずいた。ようやく現状を呑み込んで、いつもの落ち着きを取り戻したらしい。
私に背中を向けてしゃがみこみ、躊躇いがちにこちらを振り返る。
「おんぶでいい?」
「はい、ありがとうございます」
体をずらして雪崩込むように寄りかかると、ユイ先輩はしっかりと私を受け止めて立ち上がった。先輩のさらさらな銀髪が頬を撫でて、ほんの少し擽ったい。
「あはは、高い」
「そこまでじゃないでしょ。俺、平均身長だし」
久方ぶりに感じる先輩の優しい香りに、私は自然と頬を摺り寄せながら緩ませた。
「もう長いこと、ベッド以上に高い視線を経験してないんですもん」