モノクロに君が咲く

「それもそうか」

 ユイ先輩は納得したように相槌を打ちながら、やっと少し微笑んでくれた。

「じゃあ、行こうか。具合が悪くなったらすぐに言って」

「ふふ。はーい」

 以前もこんな会話をしたような気がする。記憶が全体的に曖昧でもうハッキリとは覚えていないけれど、きっとどこかで同じ会話をしたんだろう。

「というか先輩、なんかちょっと痩せました?」

「……それ、君が言うの?」

「んー、私はもう仕方ないですけど。先輩のことだから、きっとごはん食べるの忘れるくらい、描くのに没頭してたんでしょう? 沈んだら戻ってこないんだから」

 図星だったのか、ユイ先輩はぐうと押し黙った。

 相変わらず絵に囚われているのは変わらないな、とつい吹きだしてしまいそうになるが堪えて、先輩の肩にことんと頬を預ける。

 服越しでもじんわりと体温が伝わってきて、全身が弛緩していく。

「鈴?」

「少し、くっつかせてください。屋上庭園に着くまででいいですから」

 そうねだると、先輩は狼狽えてその場でたたらを踏んだ……気がした。

 それから私たちは、なんとなく屋上庭園に着くまで会話をしなかった。

 けれど、そんな静寂が不思議と心地いい。きっとユイ先輩でなければ、私もここまで自分を預けられなかっただろう。どこまでも遠い場所にいたはずの先輩が、こうして誰よりもそばにいるのは、やはりどこかこそばゆい想いもあるけれど。

 ──奇跡、みたいだ。こんな幸せに満ちた時間は。

「……着いたよ、鈴」

 歩き慣れた通路を行き、相変わらず人気のない屋上庭園に降り立ったユイ先輩。
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