モノクロに君が咲く

「初対面で俺の名前を間違わずに呼べる人って、なかなかいないんだよ。ほら、結生って、字が少し特殊だから。──鈴、ずっと前から俺のこと知ってたんだね」

 ああ、なるほどそういうことか。ようやく理解して、私はこくこくとうなずいた。

 ──春永結生。

 たしかに初めてこの字を見たときは、私もべつの読み方をしてしまった。

 おそらくユイ先輩は、私がこれまでのコンクールに出していたことに気づいたのだろう。今さら、と思わないでもないけれど、そこは先輩だから致し方ない。

「ユウキとかユウセイとかね。ユイって女の子みたいだし仕方ないことだって思ってたけど、意外とそれが俺にとっては衝撃だったんだ。初めてだったから」

「……ふふ。知らず知らずのうちに先輩のはじめてもらっちゃったんですね。私」

「うん。でも、俺にとっては、全部がはじめて。名前だけじゃない。キスだって、こんなふうに誰かを好きになるのだって、全部、鈴がはじめてだよ」

 紡がれる言葉が、あまりにも喉の奥が絞られるようにきゅっと詰まった。

 どうしてユイ先輩は、こうも心臓に悪いことばかり言ってくるのだろうか。

 先輩と一緒にいると、身体中の生命力がまだ死にたくないと訴えかけてくる。この世界で生きていたい。先輩とまだ一緒にいたいと、そう強く願ってしまう。

 たとえ叶いようのないことだとしても、この時間が一分一秒でも長く続けばいいのにと、そう願い乞わずにはいられないのだ。

「先輩は、ずるいですね」

「ずるい?」

「どれだけ先輩を好きにさせたら気が済むんですか」

 ユイ先輩の世界が色づいた。
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