モノクロに君が咲く
今日は俺の卒業式の日だ。同時に、春永一門を中心とした総会がある。全国の華道一派が集結し、春永の次期当主が正式に公表されるのだ。次期当主候補だった長男はもちろん、現当主である父も当然出席する。
本来ならば俺も出席しなければならないところだが、そこは三男だ。家を継ぐどころか、華道からいっさい距離を置いている俺は、卒業式を優先することとなった。
「……ハル兄さ。当主やるの、嫌じゃないの」
玄関に向かって歩きながら、俺は素っ気なく尋ねる。
「嫌、とは思ってないよ。兄弟のなかでは私がいちばん向いているだろうなって昔から感じていたしね。なるべくしてなった、とでもいうか」
「ふうん」
「ほら、兄さんはカリスマ性がある人だから。うちに縛られるよりは外に出て、ばりばり働く方が向いてるだろう? 結生は言わずもがな、べつのところに才があるし」
「……ハル兄だって、華道以外に道あったんじゃないの」
「あったかもね。でも、いいのさ。華道は嫌いじゃないし、誰かしらが継がなければならないなら、自ら志願してでも継ぐくらいの気概はあった。適材適所、という言葉もあるし、なにより、それが母さんの望みだったから」
思いがけない人物が飛び出して、俺はガクンと動きを止める。靴を履こうとしていた足をそのままに、勢いよくハル兄を見上げた。
「……母さん?」
「うん。母さん、亡くなる前に言ってたよ。結生にはこの家に縛られずに、自由に生きてほしいって。なんというか、おまえはどうも、幼い頃からうちの空気には馴染まなかっただろう。それを母さんはずっと心配していてね」
ぐらりと脳が直接的に揺れた気がした。