モノクロに君が咲く
困惑した表情をする沙那先輩に、思わずくすりと笑ってしまう。
「たしかに、病院にいた方が寿命は多少延びるかもしれませんけど。でも、どうせいつかなくなる命なら、ちゃんと最後まで使い切りたいから。それに……」
ユイ先輩に会いたいから、という言葉は直前で飲み込んだ。
きっと言わなくても、沙那先輩ならちゃんと察してくれるだろう。ユイ先輩とは違って、意外と気遣い屋な彼女は相手の真意を読むことに長けているから。
「これが理由です。すみません、あまり聞いていて楽しい話じゃないですよね」
「……あなた、なんでそんなに落ち着いてるの」
「え?」
「大変な病気なのに、どうして他人事みたいに話せるのって聞いてるのよ。……無理に聞いたあたしが、言えることでもないかもしれないけど」
他人事とはまた言い得て妙だ。私は眉尻を下げながら、慎重に言葉を選択する。
「なんて言ったらいいかな。……五年経ってるから、ですかね」
「どういう意味?」
「発病からこの五年間、いつ訪れるかもわからない死を覚悟して生きてきたんです。後悔しないように、今を全力で──なんて少年マンガみたいで嫌なんですけど。でも、本当にそんな感じで。その、私なりに向き合ってきた結果、といいますか」
深い海の底にいるかのような空気の重さに耐えかねて、私はたははと頬を掻いて誤魔化した。実際はそんな大層なものではないし、発病から今日までをでき得る限り思い返してみても、やはり後悔のない人生なんて少しも送れていない。
日々、自身に圧し掛かる病の無常な残酷さに打ちひしがれるばかりだ。
ただ、そんな心意気ではあった。