モノクロに君が咲く
いやそれは、と否定しようとして言葉が詰まる。
そう、なのかもしれない。
だって沙那先輩のようにユイ先輩を想ってくれる人がいれば、きっと彼はひとりぼっちになることはないから。私は、なによりあの人を孤独にはしたくない。
「ふざけんじゃないわ」
「さ、沙那先輩?」
「あのね、結生はあなたに出逢うまで本当に人形そのものだったのよ。感情どこに忘れてきたのってくらいなにかが欠落してた。だから、ようやく人間らしくなってきた今……そう、今がいちばん大事だったのに……っ」
沙那先輩は震える手で掴んでいた私の肩を離して、グッと唇をかみ締めた。
「あいつは、心の行き場を見失ってるのよ」
「……沙那先輩?」
「どんな感情も捉えられない生きた人形。それがあたしが出会った結生だったわ。恋愛なんてとんでもない……そんなの、最初からわかってたことだった」
つぶやきを落としながら、沙那先輩は私に背を向ける。
震えた肩。震えた声。泣いているのかと思ったけれど、聞けないのがもどかしい。
「わかってたのに、どうして……?」
「そんなところに惹かれちゃったのよ。危うい、ほっとけない、あたしが守らなきゃって。けど、あたしには無理だった。たったの一ミリも掴めなかった。結生の心を」
沙那先輩の言わんとしていることは、なんとなく理解できる。
けれど、それはほんの少し、私のなかのユイ先輩とズレていた。
たしかにユイ先輩は感情の起伏が少ないし、表情に出ないから思考回路も読み取りづらい。その点では『人形』という喩えは、至極、的を射ているのだろう。