モノクロに君が咲く
「まったくもってね。けど、そんなあなたを、あたしは変えられなかった。それが答えなのよ。どんなに好きでも、心に手が届かなければ意味がないんだから」
そう告げながら、榊原さんはツカツカと俺のもとに歩み寄ってきた。
かと思ったら、いきなりぐいっと胸ぐらを掴まれる。
「っ、え」
体が勢いよく前方に傾いた。
突然のことに反応できず、ただされるがままになる俺を間近で覗きこんでくる榊原さん。目前に迫ったのは、見たことがないくらい真剣な表情だった。
「よく聞いて、結生。──もしもあの子のことが本気で好きで、大切で、これからも変わらず関わっていくというのなら……ちゃんと覚悟を決めなさい」
「……か、覚悟って、なんの」
「人を想う覚悟よ。あなたが、ひとりの人間として、自分ではない誰かを心の底から想って生きていく覚悟。あのね、人を想うってそんなに簡単なことじゃないの。幸せなことばかりじゃない。あたしを見れば、わかるわよね?」
こくり、と俺は曖昧に顎を引く。
「出逢いはたしかに変わるきっかけになる。けれどね、自分が変わりたいと思わなければ変わることはないの。人の本質は確固たるものだから。そのうえでどう変化していくか、どう受け入れて馴染んでいくかは、自分次第よ」
榊原さんの言葉は難しくて、俺にはその真意をすべて読み取ることは困難だった。
されど、今、彼女がとても大事なことを伝えようとしてくれているのはわかる。
ひとつとして取り零してはならない、俺に必要な『なにか』がそこにあるのだろう。
「だから、ちゃんと自分と向き合って、ちゃんと変わって。結生」