モノクロに君が咲く
「らしいよ、先生から聞いた話だけど」
淡々と説明する愁は、ポスッとベッドの端に腰掛けて肩をすくめる。
「おれは母さんから連絡受けて、迎えに来た」
「わざわざ? ごめん、手間かけさせたね」
「今さらでしょ、そんなん。学校終わってから来たから遅くなったし。ああ、今日は母さん夜勤だからね。迎えに行けなくてごめんって謝ってたよ」
黒い学ランを身に着けている弟の愁は、現在中学二年生だ。私の三つ下。月ヶ丘高校から歩いて十分くらいのところにある、東雲中学校に通っている。
「んま、少しずつ思い出せば大丈夫でしょ」
中学生とは思えない落ち着きと、大人びた雰囲気。
共働きの両親に代わり、いつもこうして私を支えてくれるできた子だ。
けれど、それはきっと、私が病気になったから。
無理にでも大人にならなければならない環境を作ってしまったから、愁はしっかり者に成長するしかなかったのだと思う。
「……うん、ありがと。だいぶ思い出した」
──病気の影響で、私はたまに記憶が飛ぶ。
とくに眠ったあとが顕著だ。
人は眠ると、脳に蓄積された情報が整理されるという。
私の場合はそれが上手く定着しないのか、前後の記憶の曖昧さに加え、細かい内容を思い出せなくなってしまう。
なんとなく全貌は覚えていても、記憶に留めておく必要がない些細な出来事はなかなか覚えていられない。
だからこそ、私はいつも寝る前に、その日の出来事をこと細やかに日記に記すようにしていた。思い出せる限り、会話の一言一句まで。
それはもう、記憶が飛ぶようになった三年前からの日課だった。