モノクロに君が咲く
こうしておけば仮に忘れてしまっても思い出せるし、周囲に余計な気を遣わせずに済む。持ち歩いてつねに見返すことで、私の記憶喪失を隠すこともできる。
「ごめんね、愁。また心配かけたね」
「べつに。……病院は、行かなくていいの?」
「うん。たぶん、そこまでじゃない。ちょっと張り切って応援しすぎちゃったかも」
誰がどの競技に出ていたのか、上手く思い出せない。お昼休みに屋上庭園でみんなでご飯を食べたことは覚えているけれど、そのとき私はなにを話したのだろうか。
……ユイ先輩は、どんな表情をしていたのかな。
「やっちゃったなあ。こうならないよう、細心の注意を払ってたのに」
そこまで大事になっている気配はないし、おそらくまだ意識のある状態で保健室までやってきたのだろう。いまいち覚えていないけれど、きっとそうだと信じたい。
「……?」
ふと、ノートの上部から顔を覗かせている付箋が目に留まった。自分がつけたものかも定かではないものの、引き寄せられるようにそのページを開いてみる。
日付は六月二十八日だ。上から順に一日の出来事を追っていく。とくに代わり映えのしない一日だと思った矢先、中盤辺りで、ある部分にマーカーが引かれていた。
「……徒競走」
「なに、なんか見つけた?」
愁が身を乗り出して覗き込んでくる。
「先輩、徒競走に出てたんだって。そういえば私、すごく楽しみにしてた気がする」
「ああうん。言ってたね。今日の朝も」
「なんで忘れてたのかなあ。きっと見れてないよね」