モノクロに君が咲く

 蝕まれていく身体は、まるで水面に垂らした墨が水と混ざり合って広がる様に似ていた。やがてはすべて、黒一色に染まるのかもしれない。

 それはきっと、ユイ先輩が描くモノクロの世界よりも、ずっとずっと深い黒。

 光のない、真っ暗な闇の世界──。

「姉ちゃん?」

「え、あ、なに?」

「大丈夫? やっぱり病院行った方がいいんじゃ……」

 愁の心配と不安が綯い交ぜになった表情にハッとする。

 なるべく前向きに、ポジティブにいようと心がけているけれど、たまにどうしても囚われてしまいそうになるのだ。己が抱える運命の終着点を。

「だいじょーぶ! 元気元気」

 深海にずぶずぶと沈みかけた思考を勢いよく引き戻して、私は笑みを取り繕う。

「……カラ元気っていうんじゃないの? それ」

「うわあ。なんか愁、ユイ先輩に似てきたね。もともと似てるとこあるけど」

「は?」

 虚を衝かれたように、愁が男子にしては丸みを帯びた目をひん剥いた。

「やめてよ。おれ、その先輩ってやつ嫌いなんだから」

「会ったことないでしょ、愁」

「ないけど嫌い。姉ちゃんが先輩先輩ってうるさいから」

 ふん、と不機嫌に顔を背けて愁が立ち上がったそのとき、扉が開く音がした。

 先生が帰ってきたのかな、と愁と目配せしあう。しかし、こちらへ向かってくる足音に聞き覚えがあった私は、思わず「えっ」と戸惑いの声をあげた。

「……小鳥遊さん、起きてる?」

「ユイ、先輩?」

 やっぱりそうだ。カーテンの向こうでユイ先輩がホッと息を吐いた気配がした。

「入ってもいい?」

「も、もちろんです」
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