モノクロに君が咲く
おろおろとユイ先輩を見上げて、さらに困惑する。
私を見下ろす先輩は、見たこともないくらい真剣な表情をしていた。
「具合が悪いなら、早く家に着いた方がいいし。今呼んでくるから、待ってて」
「は、え、でも」
「待ってて。弟くんは小鳥遊さんについててあげてね」
ユイ先輩は有無も言わさず踵を返した。とんでもなく機敏な動きだ。
普段ののんびりとした先輩は見る影もなく、私も愁も呆気に取られるしかない。
やがて電話を終えて戻ってきたユイ先輩は、かたわらに置いてあった私の鞄を持つと「荷物これだけ?」と訊いてくる。
いつにも増して無表情なのに、不思議と怖いとは感じない。
「あ、はい。でも、教室に画材が……」
「その調子じゃ絵も描けない、というか、描かないで休まないとだめでしょ。すぐタクシー来るはずだから、とりあえず校門まで行くよ」
心なしか早い口調で言い切り、ちらりと棒立ちしている愁を見る。
「……小鳥遊さん、弟くんが背負っていく? 俺でもいいけど」
「っ、おれが背負う!」
「わかった。じゃあ、俺は荷物持つから。弟くんのも貸して」
ユイ先輩は素早く二人分の荷物を取り上げる。
指示されるままわたわたと私を背負った愁は、しかしすぐさま我に返ったように動きを止め、憎々し気に先輩を見上げた。
「あんた、なんで……」
「ん?」
「なんでそんなに、姉ちゃんに構うんだよ」
ユイ先輩は突然の敵意にも動じず、わずかに眉をひそめただけだった。
「……理由が必要?」
「っ、なんも知らないくせに……!」
「こら、愁! いい加減にしなさい!」
私は思わず声を荒らげる。