モノクロに君が咲く
でも、ほんの少しだけ拗ねているような気もする。ここ一年、毎日のように部活で顔を合わせていたおかげで、だいぶ理解できるようになってきているらしい。
「やめませんよ。ユイ先輩がいるうちは」
「……ふーん」
「ふーんて」
くすくす笑うと、ユイ先輩も無症状の顔にわずかながら微笑を滲ませた。
そんな些細な変化ひとつに心拍数が上がる。
ずるい、と。そう思ってしまう。
「次からは、連絡すること」
「はぁい。でも私、先輩の連絡先知らない」
「…………」
前髪を切る手がぴたりと止まり、珍しくユイ先輩が硬直した気配がした。
「そう、だっけ」
まさか、連絡先を知らないということすら認識されていないとは。
上げては落とされる。慣れてはいるが、つい苦笑いを浮かべてしまいながら、私はわざと唇をとがらせて見せた。
「先輩ったらひどいなぁ。私の気持ち知ってるくせに」
「俺はあまりスマホ見ないから」
「わあ現代っ子らしからぬ発言だ」
知っているとも。ユイ先輩に、ハニートラップなんてものは効かないのだ。こちらがいくらあざといことをしたところで、ユイ先輩が興味を持つことはない。
──けれど、それでいい。だからこそ私は、いまもこうしてユイ先輩のそばにいることができるのだから。
「まぁ、先輩って絵を描くこと以外への関心は薄いですもんね」
「……そう?」
「そうですよ。自分の世界に入り込んだら、周りがいくら声をかけようが気づかないし。ほら、食事も睡眠もまともにとらなくなるじゃないですか」
同じ絵を描く者として、没頭してしまう気持ちはわからないでもない。