モノクロに君が咲く

 ひとつひとつの単語をたっぷりと咀嚼し、やがて私は顔を青褪めさせた。なによりもここに、病院にユイ先輩がいるという事実が、私を動揺させる。

「あ、の……先輩……」

「さっきご両親が来られてね。今、先生と話してるよ。弟くんは……その、結構取り乱してて。でも、たぶん廊下にいるから、呼んでこようか」

「っ、待って、ください」

 どうしてなにも聞かないのか。もう知ってしまったのか。尋ねたいことはたくさんあるのに、上手く声が出てこない。言葉もなにもかも、不安に押し流されそうだ。

 すると先輩は、そんな私を落ち着かせるように頭をそっと撫でてくる。

「いいよ、言わなくて」

「っ、え……?」

「君が言いたくないなら、聞かない。君が俺に話したいって思ったときでいい」

「なん、で……」

「ああ、勘違いしないで。どうでもいいからじゃない。君が大切だから、泣いてほしくないから、そう言ってるだけ」

 ユイ先輩が慈しむような優しさを孕んで、私の目尻を指先で拭う。

 そこでやっと、自分が泣いているのだと気づいた。

「でも、これだけは言っておく。俺はね、小鳥遊さん。今こうして、君のそばにいれてよかったって、心の底から思ってるよ」

 ユイ先輩の瞳の色は、相変わらず静かな夜の空のようで。けれど、そのなかには言い表しようのない切なさが滲んでおり、私は返す言葉を失ってしまう。

 ユイ先輩の方が、泣きそうだ。

 胸の奥深くを引っかかれたような痛みを覚えながら、くしゃりと顔を歪める。

 こんな顔をさせたくないから、今まで黙っていたのに。

 ああもう、本当に、私はいったい、なにをやっているんだろう。
< 72 / 217 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop