モノクロに君が咲く

「じゃあ、弟くん呼んでくるから」

「っ……は、い」

 最後に小さく微笑んだユイ先輩は、そのまま静かに病室を出ていった。

 ひとり残された私は、腕から伸びる点滴の管を見る。見慣れた光景のはずなのに、今すぐ引き抜きたい衝動に襲われた。嫌だ。こんなものがあるから、私は──。

「……っ」

 こんなはずじゃなかった、なんて後悔したところで無意味だとわかっている。わかってはいるけれど、まだ、先輩の前ではただただ弱い私の姿を見せたくはなかった。

 ──私に残された時間は、もう、そう長くはない。

 自分でそれが嫌というほど感じられるからこそ、どうしようもなく胸が痛かった。

 泣きたくもないのに、涙が溢れ出してくる。

 ああ、嫌だ。私は、死にたくない。

 死にたくないのに。

「……っ、姉ちゃん!」

 病室に飛び込んできた愁は、泣いている私を見て悲鳴じみた声を上げた。派手に足を縺れさせて、あやうく転びかけながら、ベッドに縋りついてくる。

「どうしたの、まだ、どっか痛いんじゃ……っ」

「ちが、ちがうの。ごめんね、愁」

 弟は、私よりもよっぽど泣き腫らした目をしていた。

 不意に小さい頃のことを思いだした。

 いつ、どんなときも、私の後を追いかけてきていた愁。自分が一緒に行けないとわかると、こんなふうに目と鼻が真っ赤になるまで泣いていた。

 いつまでも小さいままだと思っていた弟が、あっという間に私を追い越して、知らぬ間に大人になってゆく。それをずっと、寂しく感じていた。

 でも、やっぱり、愁は愁だ。

 どれだけ身体が大人になっても、たったひとりの弟であることに変わりはない。
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