モノクロに君が咲く
会場にいるくせにまったく展示絵に興味を示さず、壁に背を預けて、ただただ眠そうに舟をこいでいる男の人。
そこだけ空間が切り取られているような、独特な空気感。精巧な人形を彷彿とさせる彼の容姿を見た私は、すぐに彼が『春永結生』だと気づいて。
その月明りのような銀髪に、一瞬で目を奪われた。
前にテレビ局のインタビューで見たときは普通の黒髪だったはずなのに、という疑問よりも、そんな奇抜な髪色が彼らしいと感じたことに拍子抜けした。
銀。ともすれば、灰。黒と白の中間色。
鉛筆画家。否、モノクロ画家そのものだと感じた。
ああ、この人自身もついに染まってしまったんだと。あの色のない世界に生きているんだと。なんだかとても、寂しく思った。
「憧れの先輩がびっくりするほど近くにいたっていう幸運もあるけどね。私的には運命なんじゃないかって思うほど衝撃で、行かないっていう選択肢がなかったんだ」
たぶんあのとき、ユイ先輩へ抱く気持ちが塗り変わったのだ。
いつかこの人を越えたいという憧れや尊敬から、この人に近づきたいという好きの気持ちへ。一目惚れ、と言ってもよいかもしれない。
それだけ、ユイ先輩は強烈に私を惹き寄せた。
いつも絵だけを見てきた自分を後悔するくらい、強く、強く。
ただただ死を待つばかりだった私に、希望を芽生えさせてくれたのは──高校に行きたいと思わせてくれたのは、他でもないユイ先輩だった。
「本当にね、進学したのは正解だった。いいことばっかだったもん。本来の目的である先輩に会えたのももちろんだけど、ふたりとも仲良くなれたし」