【短編】悪役令嬢は全力でグータラしたいのに、隣国皇太子が溺愛してくる。なぜ。
 長かった。本当に長かった。

 私は前世を日本人として生きた独身アラフォーのOL、いわゆる枯れ女だった。一応、彼氏だっていたことはあったけど、デート代はすべて私持ちだったり、無職で浮気男だったり、DV男だったりとあまりいい記憶がない。

 幸薄そうな見た目が災いし、愛人の誘いや本命の彼女がいるけどなんて二股前提の男もいた。

 すっかり男性不審になった私は婚期を逃し、本当に枯れたような生活を送っていた。

 両親は事故で他界していたから妹の美華(みか)とは仲がよく、美華は漫画や小説が大好きだった。週に一度は顔を合わせてその作品について熱く語られたけど、美華の楽しそうな笑顔を見ているだけでよかった。

 美華が特にハマっていたのは『勇者の末裔』という小説で、漫画も大ヒットしていて、今度アニメ化すると嬉しそうに話していた。

 その中でも一番人気のキャラが冷徹だけど一途な皇太子、アル様だと言っていた。『鍛え上げられた頑強な肉体、鋭利な刃のような眼差し、真っ直ぐに伸びた鼻梁、艶のある唇。一途な愛。お姉ちゃんの相手にピッタリ!』と何度も語られたので私まで覚えてしまった。

 その頃、半年かけて手にした成果を若くてかわいい後輩に奪われた。上司たちは後輩を褒め、私は叱責され、誰にもフォローさえしてもらえずヤケ酒を飲んだ。
 その後、湯船で寝てしまったのが最後の記憶となっている。
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