悪役令嬢は最後に微笑む


 新しい人生に立ったことがまだ驚きを隠せない。その上、乙女ゲームの悪役令嬢になろうとは予測不可能だ。

 でも今の私は、リサリルとして生まれ変わっている。


「絶対に……今回はバッドエンドになんかさせない」


 素直に生きるんだ。乙女ゲームの世界だろうが、何だろうが私は私の命を全うする。

 バッドエンドの道しか知らない私には、この後の流れがどう動いていくのか検討もつかないけど……。

 逆に考えれば、最悪な結末までの流れを全て知っているんだから、そこは回避することが出来るはず。

 世界を崩壊させて自分だけの国を作ろうと闇に染まったリサリルとは違い、多くの人達の命が犠牲になる絶望だけしかない世界を今の私が望むことはない。

 他のリサリルの断罪イベントを何らく回避して、ただ穏やかな生活を手にするために素直さを身につけて、今回の人生を生きなくちゃ。


「はあ……って言っても、どうしたらいいのかまでは分からないし……ん?」


 一人頭の中でぐるぐると考え事をしていたせいで、狼が目の前にやって来ていた事さえ気づかなかった。

 大人しく私の前に座り、背筋をぴんと伸ばす凛とした様子に思わず見惚れそうになる。


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