悪役令嬢は最後に微笑む
そうよ、原作に居なかったこの子についても考えなきゃ。
保護するなんて言ったけど、召喚に巻き込まれてしまった可哀想な立ち位置に居るかもしれないし、家族の元へ帰してあげた方が――。
「大精霊に選ばれし者よ」
「……えっ?」
「助けてくれた事、心から感謝する」
すらすらと私と同じ言葉を巧みに扱うのは、紛れもなく目の前に座る一匹の狼。人と同じように頭を下げている姿に、慌ててこちらも頭を下げる。
前世の私なら大声で叫んで驚いていただろうけど、転生したことに驚き過ぎた私には、魔法の世界では狼も喋ることは何らおかしくないとすんなり受け入れてしまった。
「私こそ、一人ぼっちを免れたというか、あなたが傍に居てくれて心強かった。ありがとう。あなた、名前は?」
「バル……とでも呼んでほしい」
「バル、ね。私は……」
馴染んだ名前を言おうとしたが、一度飲み込む。
小野木 真美はもう何処にもいない。今の私は、紛れもなく――。