悪役令嬢は最後に微笑む
「私は――リサリル・イルシスよ」
「リサリルか、いい名だな」
バルに名前を呼んでもらって初めて、分離していた自分という存在が一つになったような気がした。
名前を呼んでもらっただけなのに、どうしてこんなに胸が温かくなるんだろう。
初めて出会った時に感じた安心感は、この世界に来たばかりの私に勇気をくれた。
原作には居なかったバルの存在がどういう存在なのかは分からないけど、きっと何か大きな力を持つ重要な役割を担う存在なのかもしれない。
悪役令嬢の私には釣り合わない力かもしれないけれど、私は未知なる世界にバルの存在なしでは生きていけない、そんな直感を信じて、今までの私なら素直に言い出せなかったこの想いを真っ直ぐにぶつけた。
「ねえ、バル。これから一緒に生活しない?きっと召喚で私達が出会えたのも何かの縁があったかもしれないし。それにね、バルが傍に居てくれると不思議と素直になれる気がするの」
アーサーの意見に抗えたのも、バルが私に勇気をくれたから。
この先の分からない未来も、きっとなんとかなると思えるのもこうして今バルが目の前に居てくれるからだった。
嫌われるのが怖くて自分を押し殺していた自分を受け止めてくれるように、バルは嬉しそうに尻尾を振ってくれた。
「最初から俺はそのつもりだった。助けられたこの命、今度は俺がリサリルを守ろう」
「ありがとう、バル!」
このまま一緒に居られる嬉しさが込み上げ、そのままバルのもふもふの毛並みに抱きつくと、少し恥らったバルは照れくさそうに鼻を鳴らすが、くっつく私に頭を摺り寄せてくれた。
こうして転生して初めて出来た友達が狼という、ちょっと変わった私の新しい人生はこうして幕を開けたのだった。