悪役令嬢は最後に微笑む
自分を素直に受け止めてくれるバルの存在が温かくて、思わず頬を擦り寄せる。
「今日もありがとうも、ごめんなさいも素直に言えなかったの。バルの前だと平気なのに、なんでかなあ……」
「じゃあ、今日も特訓するか?」
「そうだね。うじうじなんてしてられない!」
抱き着くのを止めて、向き直るように座るとバルの顔を見て笑顔を作る。
あの場で笑顔を作れたら、また違った方向に進んでいたかもしれないなんて後悔を振り払って、基本の挨拶を口にしていた。
「こんにちは。さようなら。ごめんなさい。ありが、とう……」
「大丈夫だ。そう固くならなくていい」
「ありがとう」
「ほら、今だって素敵な笑顔と共に自然に言えている。リサリルは素敵な女性だ。だから自分を信じろ」
日々の特訓。それは狼に向かって挨拶を繰り返すという、傍から見たら結構間抜けな光景かもしれない。
でも、自分らしくありのままの笑顔で素直になって破滅ルートから抜け出す為の大切な特訓。
こんなことに付き合わせているっていうのに、真剣に向き合ってくれて応援してくれるバルに成果を伝えられるように、私は日々心底真面目に取り組んだ。