悪役令嬢は最後に微笑む
顔をその艶やかな黒い毛に埋もれさせながら、想った事をそのまま口にした。
「バルはね、太陽みたいな陽だまりの良い香りがするの。黒い毛並みはまるで黒真珠のように綺麗だし、ぎゅってするととっても柔らかくて、私の不安を包み込んでくれるの。綺麗な満月みたいな目は、いつも私の事を見守っていてくれて、失敗しても大丈夫って言って勇気をくれる声は凛としていてカッコイイ……こうやって素直な気持ちを言えるのも、バルが優しくて素敵だからだよ……」
「リサリル……」
「これから先も……バルと……」
まだまだバルに伝えたいことがあるというのに、零れた欠伸と共に急に襲い掛かってくる眠気に抗えず、重たくなった瞼が下りてきた。
包み込む心地のいい温もりに抱き締められながら、午後の木漏れ日が降注ぐ中、大きな手で頭を撫でられるような感覚と共に夢の中に足を踏み入れる。
「君を選んだのは間違いじゃなかった。大丈夫、必ず俺が君を――」
どこか遠くで聞こえてくる声は、夢の中に居る私にはハッキリと聞こえなかったけれど、すごく安心するそんな声だった。
一瞬見えた人影が誰なのか考えることも出来ずに、深い沼に落ちていくような感覚に包まれていった。